少し前、サラリーマンのキムさんはキャンプ用のリュックを背負い、ソウル市東大門区祭基洞の亰東市場を訪れた。キムさんは市場の中心にある「相生場」の建物の屋上にテントを張り、一夜を過ごした。キムさんは「市場で適当に食糧を調達し、キャンプ仲間と分け合って食べた。地方に出掛けるのは体力的に厳しいが、市場の雰囲気も感じられるし、都会の夜景を見ながらキャンプをすることで一風変わった経験ができた」と語った。
 若者たちが最近、伝統市場に集まっている。市場では積極的に、若者をターゲットにした店や文化空間をつくっている。最近人気を集めているのが亰東市場の相生場だ。ここはこれまで20年余り、近くで店を営む商人たちの倉庫として使われていた建物だ。飲食業を営むナ・ヨンギュ代表がこの空間を借り、自家製ビールを出すビアホール、チキン店、中国料理店などをオープンした。近くに韓国外国語大学、慶煕大学、ソウル市立大学があり、今では大学生や外国人留学生たちがよく訪れるスポットになった。特に外国人たちは、韓国の伝統市場の独特な雰囲気に魅了されている。ナ代表は「伝統市場の雰囲気を壊さないようにしながら、新たな空間をつくりたかった。寒くなる前は主に屋上でルーフトップパーティーをしていたが、口コミで広まり、市場内で結婚式を挙げたカップルもいる」と話している。

 20-30代の実業家が伝統市場内に若い感性あふれる店をオープンし、ここに若者たちが集まるという現象は、ここ数年間のトレンドだ。光州松汀駅近くの毎日市場は、1913松汀駅市場として新たに生まれ変わった。光州創造経済革新センターが現代カードと手を組み、市場内の店舗をリニューアルした後、若い実業家20人余りを呼び寄せた。光州市出身のチョンさん(28)は「ソウルの広蔵市場に行ったとき、日本や中国からやって来た観光客ばかりで、とても商業化されている感じがしてもう行きたくないと思った。松汀駅市場は子どものころの懐かしい雰囲気を感じられる一方、細やかに飾られており、デートコースにピッタリだ」と語った。
 こうして伝統市場に若い実業家たちが集まっている裏には、都心の家賃高騰という現実的な理由もある。亰東市場相生場のナ代表は「弘益大学や梨泰院エリアには、若い実業家が1億ウォン(約1000万円)で商売できる店はない」と話している。
 弘益大学エリアの高い家賃に手が出ないたち人が近くのソウル市麻浦区望遠洞に集まるようになり、望遠市場にも若い客が訪れるようになった。望遠市場商人会は昨年5月、若い客を誘致するため、市場内のカフェで料理大会を開催した。大会名は「心配いらないよ一人飯」。商人会の関係者は「一人暮らしをしている若者たちが市場を訪れるようになり、感謝の気持ちを込めて大会を企画することになった。客層が変わり、最近は一人用に少量の食材を売る店も増えている」と語った。
 しかし、一部の市場では古くから店を営む人たちが威張り散らしたり、若者たちが集まるのを快く思わないケースもある。仁川市の江華風物市場では、2013年に20-30代の男性5人がオープンした清風商会が、賃貸契約の過程で商人会から、毎朝あいさつをするとともに市場の雑役をこなすよう要求され、物議を醸した。亰東市場で20年ほど前から青果店を営むある店主は「若者たちをよく見掛けるようになったが、新しい店に行くだけで、特に売り上げは増えていない」と語った。

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